Lambda

子育てについて (1) 名前のこと

最近、子供が生まれた。そこで、いくつか子育てについて思うところを書き残しておきたい。いま何を書き記すにせよ、実践がその通りに進むとは思わないが、考えを整理しておくことは、今後の基準や指針になるだろう。

この記事では、子供の名前について話したい。子供には、置かれた状況をよく見通すことと、必要な作法に則って事を進めることを大事にしてほしい、という名前を付けた。

今日の日本人の平均寿命は男女とも80歳を超えているので、2022年に生まれた子は21世紀を生き抜き、22世紀まで生きると期待できる。彼らが育ち、暮らす21世紀の世界とはどのようなものであろうか。その一つの特徴は、人や物の協力関係がかつてないほど効率的になることであろう。

技術や社会制度の発達によって、新しいことを学んだり、同志を見つけるのはかつてないほど容易になった。なかでも、インターネットの影響は無視できない。インターネットの出現によって、専門知識を学んだり、学校や地域の枠を超えて志を同じくする者と交流することが、かつてとは比較にならないほど容易になった。私の幼少期であれば、図鑑に載っていることを一通り暗記するだけで私はその分野の「はかせ(博士)」であった。21世紀に育つ子供の知識の深さはその比ではないだろう。このようなインターネットを介した知的な交流は、人と人が互いのバックグラウンドを深く理解するような関係を構築するかはともかく、他人から学ぶという意味において、人との協力関係の上に成り立っている。

さらに、私たちが協力すべき相手は人だけではない。私たちは身の回りの機械によってますます多くを成しうるようになっているし、社会制度のような抽象的な仕組みも私たちの活動を後押しするよう洗練されている。機械や制度は人格をもった相手ではないかもしれないが、私たちの求めに応じて力を貸してくれる点で重要な協力相手だ。

社会は、私たちがますます効果的に協力できるように変化しているが、その一方で、個々人が持つ能力の価値は低下している。例えば、あなたは暗算がとても速く正確にできるとしても、Excelが使えなければ、言い換えれば機械との協力を苦手としていれば、現代において経理の仕事に就くことは難しい。仮に、暗算でなければならない仕事があったならば、そこは珠算の有段者が集まる厳しい競争世界であるはずだ。人より少しだけ得意な芸が身を助けることはあるかもしれないが、それをより所として生きる道は厳しいものである。

世界中の人と比べられ、機械があらゆる退屈な仕事を人間よりも速く正確に処理する21世紀の世界においては、決められたやるべきことを片付けることよりも、やりたいことに応じて人や物の協力関係を積極的に利用できるかどうかが重要なのだ。もちろん、2022年現在、片づけるべき泥臭い仕事が存在していることに疑いはなく、これを片付ける実務能力は絶対に必要だ。あくまでも、大きな流れは私たちが自ら体を張るよりも、協力によってより効率的に目的を達成する方向に向かっているという話である。

協力関係の利用は、生まれながらに誰もができることではなく、訓練によって獲得される技能である。協力関係を利用するためには一定の作法があって、自然には身につかないからだ。これは知識というより習慣に近い。インターネットを日常的に利用しているといっても、インターネットからサジェストされる動画を見続けることと、知りたいことを積極的に調べることは違っている。インターネットで日常的に調べ物をする人にとって、検索ワードを入力することは労力にさえならないが、慣れない人にとっては検索をためらうのに十分な労力である。自分の知りたいことを検索ワードの形で言語化するのは案外難しいのだ。これがイメージできない人は、図書館の書架の整理番号について初めて習ったときに感じた小難しさのことを思い出してみればよい。何かを積極的に利用できるようになるというのは、それを効果的に使う作法を習慣化するということである。

適切な人、適切な道具、適切な制度を駆使すれば私たちはずっと多くの事を成しうる。成しえたことの量が幸福の量ではないとしても、何かを成し遂げるために時間を費やすことは彼の人生を充実させてくれると私は信じている。だから私は、これからを生きる人にとって、協力関係をできる限り自然な形で、日常生活の一部として利用できるようになることが重要だと考えているのだ。人より優れた能力が競争に有利であることは全く否定できないとしても、充実した人生に寄与するかという観点からは、効果は限定的に見える。

私は、子育てにおいて協力関係の作り方と使い方を伝えることに力を尽くすべきだと思うのだ。子供の才能を伸ばすことよりも優先度は高いと思う。

人はそれぞれ目的をもって動いており、機械にはその設計において想定された利用目的があり、制度には制定時に目的とした効果がある。したがって、これらと効果的に協力するためには、状況をよく見通して、目的に応じた適切な相手とつながることが重要だ。

さらに、協力関係の参加者には求められる一定の作法(プロトコル)がある。人と協力するときの作法、機械への命令、制度を利用するための手続は、いずれも適正に行われてこそ効果を発揮する。

新たに生まれた子には、置かれた状況をよく見通し、求められる作法に則って、21世紀の世界を生きてほしいと思っている。ここまでいろいろ書いてきたけれど、つまりは先人の知見に学び、志を同じくする人と過ごし、道具を使うことに長けていて、必要な手続きを億劫に思わない、そうやって人や物との関係を大事にして生きるのが良いのではないかという話。